世界でいちばん幸せなのだあれ？

二十歳の頃のクリスマスシーズンは、
デパートの特設会場でアルバイトをしていました。

クリスマスプレゼントをお買い求めくださった方に
ラッピングサービスをして差し上げる係です。

まず、ラッピングペーパーとリボンの色を選んでいただいて
手回しのお花製造機にリボンをかけます。
カチャカチャ、１５回　回転させて１個のお花ができます。
なんだか優雅なアルバイトに思えますよね。

ところがどっこい、
クリスマス前の２２日、２３日、２４日は
まさに戦場でした。
なんたって、各階でお買い物をなさった方が
１階のラッピングサービス場へ、みーんな集ってみえるのです。

アルバイトの私たちはたったの３人！
ずらりと並ぶお客様の列はどんどん伸びて
常時５０人を超えているのです。

包装紙は？　Aですね？
おリボンは？
はい、赤に金の水玉ですね？
カチャカチャカチャ、、、、
シールで留めますか？
あ、こっちも？はい。
え？熨斗？熨斗はできないですぅ、クリスマスですからぁ。。

もの凄く　超特急でお包みするのですが
列は、夕方になると　どんどん長くなっていくのです、、、
お昼休みもなく、休憩も取れず、ラッピングし続ける私たち。

腕がどんなに怠くても、指先がささくれても
頑張れたのは、
並んでくださるお客様が、
みなさん、笑顔で待っていてくださるから。

大きなぬいぐるみを抱えたおじいちゃま、
きっとアクセサリーね、の小さな箱を
手のひらで隠すように持っている青年、
最新のアイロンを持ったお父さん、
リカちゃんハウスとプラモデルとレゴセットの箱を積み上げて
お顔が見えないおばあちゃま。



みんなが、ニコニコしながら、私たちの手元を
見つめています。
ニコニコが　ずらーーーり、です。
開いてくれる人のお顔を想像しながら
セロハンテープは　きっちり、真っ直ぐに。
リボン結びも、きゅっと！

そうこうしているうちに
お隣の香水売り場の店長さんがみえました。

あのね、悪いんだけど、、、
うちの包装紙とリボンが品切れになてしまってね、
申し訳ないんだけど、ナイショでうちのお客さんのも
ラッピングしてあげてくれない？

アルバイトの分際で　NOはございません。
頑張りましたとも。

２４日のデパートは午後９時で閉店になりました。

１２時間立ちっぱなしで、脚はパンパン
お花製造機を回す腕は、筋肉痛で上がらなくなっていました。
お腹も　ぺこぺこを通り過ぎて　
すいているんだか　いないんだか　判らない状態でした。

お客様が　それぞれの幸せを抱えてお帰りになった
９時１５分。
お隣の香水売り場の店長さんが　近づいてこられました。

「お疲れさまだったねえ、、、
　ほんと、よく頑張ってくれました！
　ありがとう、とっても助かったよ」

そうおっしゃって、
私たち３人の手のひらに
小さな箱を握らせてくれました。

「これは、お礼。メリークリスマス！！」

手のひらの小さな箱は、
香水のサンプル瓶でした。

あ、CHANELの５番！

マ、マリリン、モンローの？！

ン十年前の　二十歳の女の子が
CHANELの５番のサンプル瓶を握りしめて
どんなに幸せだったか　想像なさってくださいね。





イラストは　学研さんのSmile12月号より。

クリスマスの晩、空を見上げてください。
自分が何かをいただく喜びよりも、
自分が誰かのサンタさんになれる喜びを知っている人たちが
ツリーの宙を駆け上がっていきます。
たぶん、世界でいちばん　幸せなひとたち、、、、



トナカイキャップのプリンと、
サンタコスチュームのシルヴィー。
君たちは居てくれるだけで
サンタクロースだよ。
お陰で毎日、クリスマス気分。

ありがとうね。


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